同人誌『さなぎ』第11号 児童文学同人『さなぎの会』

sanagi11

【コメント】
今回の季節風・同人誌評の私の担当は『さなぎ』第11号だが、 そこで取り上げることができなかった作品の紹介と一口寸評をこの場で述べたい。 (プロ作家・中野幸隆氏の特別寄稿作品は割愛させていただきたい)


『クリラ』
東京羽田沖に出現した怪獣クリラが羽田空港に上陸し○○○する。その対応に追われて ワイドショーを騒がせた政治家著名人がドタバタするナンセンス作品。
時節モノのパロディは疑問だが、根源となる発想は面白い。


『いちばんになる』
お腹の中の赤ちゃんにつきっきりのパパとママに、さびしさを感じる保育園児りおくんの話。
よくある話といえばそれまでだが、幼年童話に相応しいハートフルな記述が心地良い。


『ぼよよん』
丸く固まった部屋のほこりが動き出した。その正体は……。
不思議噺のようにみえて、最後にはしんみりさせる話。 これも児童文学の定型だが、文章がしっかりしている。


『キャサリンを探せ』
探偵に憧れる少年が、リアルに依頼を受けて、失踪したネコを探す話。
わくわくする展開に、ひとひねりしたたオチが秀逸だ。


『夜明けの孔雀』
空襲体験記ともいうべき戦争の悲惨さを伝えるリアリズム作品。
昭和28年に語ったとする戦中体験の語り部話が、今の子供にどこまで臨場感をもって 戦争の悲惨さに迫れるかが鍵だろう。語り部ではなく、戦中進行形で話を進めたほうがよかったと思う。


『赤はらのお静』
お静という名のイモリが紆余曲折して結婚する話。
時代劇のような予定調和的作品だが、台詞や綴りが安定していて面白く読ませる。


『虫愛ずる少女』
ゴキブリやクモさえも殺すことを躊躇う少女の話。
命の大切さを考えさせられる仏教に通ずる作品だ。


『さなぎ さんぽにいこう』
青虫がさなぎになるまでを見守るひろし少年の話。
夢の中でチョウと散歩にでかけるシーンがセンシティヴでリリカルだ。


『黒猫モカと黒の魔王』
黒猫モカが、黒の魔王のために地上界にお嫁さんをさがしにいく話。
少女漫画的ファンタジーの予定調和作品だが、この作品もまた台詞や綴りが 安定していて読ませる。エンタメ系の秀作。


『アユミといっしょに』
充人ら子供たちが、牧場体験講座に参加し、牛の世話など出来事を通して成長していく姿を描く長編作品。
この作品も細かいエピソードや台詞、地の文等の整理が必要に思う。 また、性に関するエピソードは賛否が分かれそうだ。


■発売元/発売年:児童文学同人「さなぎの会」 / '20年6月1日
■グレート:―――
■CAST:―――